相続財産の使い込みとは、相続開始(=被相続人の死亡時)の前後で共同相続人の一部などが、被相続人の財産を勝手に使ってしまうことをいいます。具体的には、
・被相続人の口座から預貯金を引き出し、自分や自分の子どもなどに使ってしまう
・不動産、有価証券等の資産を無断で売却する
・被相続人の生命保険を解約してお金を着服する
などの行為です。ここでは、共同相続人の一人が、相続財産の使い込みが発覚した場合の対処法について解説します。
■使い込みの時期による対処法の違い
まず、使い込みが行われた時期、すなわち相続開始前か相続開始後かによって対処法が異なります。
●相続開始前(被相続人が死亡する前)に使い込みが行われた場合
相続開始前に遺産の使い込みが行われた場合、本人(被相続人)は使い込みを行った者に対し、「不法行為に基づく損害賠償請求」または「不当利得返還請求」のいずれか、あるいは両方の請求で、財産を取り戻すことになります。相続開始前に使い込みが行われ、相続開始後にそれが発覚した場合、相続人は本人の「不法行為に基づく損害賠償請求」「不当利得返還請求」を相続するため、各相続人はその法定相続分に応じた請求を行うことができます。
使い込みを行った者が請求に応じない場合は、最終的に民事訴訟を提起することになります。
●相続開始後(被相続人が死亡した後)に使い込みが行われた場合
遺産分割の対象となる財産は、「遺産分割時の相続財産」です。「相続開始時の相続財産」ではないため、共同相続人の一部が相続開始後・遺産分割前に相続財産に属する財産を処分してしまった場合、他の相続人は泣き寝入りせざるを得ないのでしょうか。
遺産分割前に相続財産に属する財産が無断で処分されたことにより不利益を受けた者は、「不法行為に基づく損害賠償請求」「不当利得返還請求」を行うことになります。このほか、2018年(平成30年)の民法改正で、一定の要件(処分した共同相続人以外の共同相続人全員による同意など)を満たせば、処分された財産を遺産分割時に相続財産として存在しているものとみなし、遺産分割手続きの中で処理できるようになりました(民法906条の2)。これにより、例えば、共同相続人の一人が使い込みをした場合、それ以外の共同相続人全員が同意すれば、処分された財産も遺産分割の対象となるため、遺産分割時にその相続人の取り分を減らすことができます。
なお、この改正法の規定は、2019年(令和元年)7月1日以降に適用されます。
■使い込みの調査
共同相続人の一部に使い込みが疑われる場合、以下の方法で調査しましょう。
●個人で調査
例えば、預貯金の使い込みが疑われる場合、被相続人名義の預貯金口座がある金融機関で、「取引明細書」を発行してもらうなどの方法で、不正な引出しや送金等の取引内容を明らかにできます。
●弁護士に調査を依頼
調査対象となる財産が多い場合は、弁護士に調査を依頼することをおすすめします。「弁護士照会制度」という制度を利用することにより、預貯金の取引明細書等を効率よく取り寄せることができますし、取り寄せた資料の分析を弁護士に任せることができます。
●裁判所を利用して調査
使い込みを行った者の名義口座の取引履歴まで調べるには、裁判所を利用する必要があります。訴訟(損害賠償請求訴訟・不当利得返還請求訴訟)を提起したうえで、裁判所に「職権調査嘱託」という手続きを申し立てることで、審理に必要な範囲で金融機関へ照会(確認)を行い、使い込みを行った者の名義口座の取引履歴を開示できます。
■使い込みが行われた場合の対処
使い込みが行われた場合、以下の対処法が考えられます。
●相手との話し合い
調査結果などをもとに、使い込んだ者と直接話し合って、使い込んだ財産の返還を求めます。訴訟の場合、時間と費用がかかるため、まずは任意に返還に応じるかを確認します。
●遺産分割調停
前述の通り、近年の民法改正で、共同相続人全員(使い込みを行った相続人を除く)の同意で、処分された財産も遺産分割時に存在しているとみなすことができるため、遺産分割調停などで、使い込みを行った者の取り分を減らすことが考えられます。
●訴訟
損害賠償請求訴訟・不当利得返還請求訴訟を提起して、返還を求めます。
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相続財産の使い込みが発覚した場合の対処法
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